アップル-サムソン知財紛争早わかり(1)

Apple i-Phone (iOS) V.S. Samsung Galaxy(Google Android)—YOUR FIRST Apple-Samsung KIT
  スマホ市場のプレイヤー
 2007年1月9日にiPhoneが発表されて以来、スマホ市場は急激に拡大してきました。最初に投入された製品が新規な市場を席巻することは常識ですし、使用方法が複雑だったり、使用契約期間が長かったりすると、消費者はなかなか他社製品へは変更せず、同じ会社の製品を使い続けるため、消費者へ最初に販売することはとても重要です。スマホ市場では、他社製品を排除するために、各社が特許権や意匠権等の知的財産権を利用して激しく争っています。最近では、特にアップル、サムソン、マイクロソフト、グーグル社が有名です。
 2011(H23)年4月15日に、アップルは米国カリフォルニア地裁サンノゼでサムスン製品に対し仮差し止め、損害賠償その他を請求する訴えを起こしました。そして、この時からアップル対サムソンの本格的な知財訴訟が始まりました。

  差し止め請求権
 「差し止め請求権」とは、特許や意匠の権利者に認められている、非常に強い権利です。(i)他社の製品(被疑侵害品)が権利を侵害していること、(ii)自分の権利が有効なこと、が認められると、侵害品の製造、輸入、販売、展示、広告等が禁止されます。侵害が明らかであって、早急に差し止めをする必要がある場合は、緊急的に差し止めの仮処分が出される場合もあります。
 (i)権利を侵害しているかどうかは、被疑侵害品が「特許請求の範囲」に含まれるかどうか、で判断されます。通常は、「特許請求の範囲」に規定された条件を一部でも満たさないと、特許権の侵害は認められません。他社としては、自社の製品が特許権の「特許請求の範囲」の条件の一つでも当てはまらなければいいのです。
 例えば、「画面に表示されたリストを動かしていって、リストの最後になるとリスト画面が跳ね返ったように見えて、もうこれ以上リストデータはないことを示す」技術が「特許請求の範囲」に記載されている特許権は、「リストの最後になるとリストが動かなくなり、画面の下部が青く光って、もうこれ以上リストデータはないことを示す」(跳ね返らない)製品を差し止めることはできません。
 同様に、従来はディスプレイの外側を銀色の外枠(ベゼル)が囲んでいるデザインが主流だったのに、ベゼルが無く一体型でスマートな外観に特徴のある製品の意匠権では、ベゼルが目立っている製品を差し止めることはできません。
 (ii)特許庁へ特許出願書類を提出した日(出願日=優先日)よりも前に、「特許請求の範囲」に規定された発明が公開されていたり、公開されたものから容易に発明できた場合、その特許権は無効とされ、他人の製品を排除することはできません。最初の特許出願書類に「特許請求の範囲」の発明が記載されていない場合にも無効となります。例えば、もし、2007年1月9日以前に提出したアップルの出願書類にバウンスバック技術が記載されておらず、2007年1月9日のプレゼンテーションで、ジョッブスがバウンスバック技術を公開したことが証明された場合には、バウンスバックの特許権は無効とされます。

  損害賠償請求権
 特許権や意匠権を侵害された場合、侵害により発生した損害を賠償してもらう「損害賠償請求権」も発生します。しかし、損害賠償を請求する場合、上記(i)、(ii)だけではなく、(iii)損害が実際発生しているのか、(iv)損害額はいくらなのか、なども裁判で争って決着をつけなくてはなりません。
 競業者同士で(iii)損害の発生の有無を争うことはほとんどありませんが、(iv) 損害額の算定は、製品の売り上げ、その特許発明の製品全体に対する貢献度(寄与度)その他、非常に様々な要因を証明・検討しなくてはなりません。必要な証拠は多く、裁判期間は長く、法定費用も高額になることが通常です。裁判が長期化している間に、相手側の製品がどんどん市場に出回り、確保したかった市場が失われてしまいます。